宮崎西都原古墳訪問記
平日はエンジニアの仕事をし、土日に歴史ライタとして活動する私にとって、野外
に取材に行く機会は大変に少ない。
愛知県岡崎市に住む私は、日帰りで高速道路を使って奈良や明日香村に出かけ、馬
子の石舞台や、飛鳥寺をあわただしく見て回ることはできるが、それ以上遠い地に
ある遺跡・遺構・墳墓を見て歩くことはめったにできない。
「謎解き日本史・詳説古事記」を、2007年1月に出版し、その中で邪馬台国は、
西都市に在ったとの自説を述べた。述べたからには、実際に現地を取材して、自説
が間違いないことを検証しておく必要がある。というような訳で、2007年3月
も終わる頃に、お休みを頂き、西都原古墳群を訪問することにした。
中部国際空港から宮崎空港に入り、バスを乗り継いで西都市に降り立ち、タクシー
に乗り継いで高台に位置する西都原古墳群に着く。案内所で、広大な古墳群を巡る
ための自転車を借り入れ、早速古墳巡りを行う。
折りしも桜の開花と重なり、古墳群の中核をなす男狭穂塚と女狭穂塚の参拝所に到
る道の両側には屋台が並び、人々が集い賑わっている。広大な台地には、よく手入
れされた草原と菜の花畑が広がり、古墳が見渡す四方に点在しており、屋台が並ん
でいるところ以外は、人影はまばらである。
まず、著者の目を惹きつけたのは、はるか北方にそびえる高千穂の峰々である。山
の端が鋸の歯のようにギザギザと続いている。高千穂の峰と呼ばれるのは、このゆ
えに名付けられたのだと、改めて納得した。その昔、天孫、邇邇芸尊
(ににぎのみこと)が一族郎党を率いて、高千穂の峯に降臨されたとの伝説は、この
地で発祥したのであろう。
この地に伝わる伝説によると、高千穂の峯に降臨された天孫、邇邇芸尊(ににぎのみこと)
は、船に乗ってこの地に上陸され、この地に住まれたという。そして、
この地で亡くなられた。男狭穂塚は、邇邇芸尊(ににぎのみこと)の墓であり、
女狭穂塚は、邇邇芸尊(ににぎのみこと)が見初めて妃とした木花佐久夜比売
(このはなさくやひめ)の墓であるという。木花佐久夜比売(このはなさくやひめ)の
父、大山津見神の墓と伝えられる前方後円墳もある。なぜ、このような伝説が伝え
られたのであろう。その答えは、宮崎市内に戻り、宿泊したホテルの近くにあった
宮崎神宮をお参りした時に得られた。
宮崎神宮に掲げられた略記によると、神武天皇の孫、建磐龍命(たけいわたつのみこと)
神武天皇と彼の両親、鵜葺草葺不合命(うがやふきあえずのみこと)が、
と玉依姫(たまよりひめ)を鎮祭され、今日に到っていると記されている。
神武が東征に旅立って後、西都市と宮崎市を中心とする日向国を、神武天皇の子孫
がしばらくは治めていた。そして、彼らの権威を高めるために、この地に残された
大規模な古墳は、すべて彼らの先祖の墳墓であるとしたのであろう。そして、男狭
穂塚を、天孫降臨した彼らの始祖、邇邇芸尊(ににぎのみこと)の墓としたので
あろうと思われる。
私は、女狭穂塚は、邪馬台国の女王、卑弥呼(=古事記の天照大御神)の墓と
思っている。そして、その側にある帆立貝式古墳の男狭穂塚は、彼女の父、天
火明の墓と思っていた。しかし、その参拝所に置かれたレリーフに描かれた男
狭穂塚と女狭穂塚の仲むつまじい配置を眺めていると、男狭穂塚は、卑弥呼の
居所に出入りする男子(=古事記の高木神)の墓であろうと考えが変わった。
帆立貝式古墳は、首長に仕えた豪族の墓に多く見られる。巨大な帆立貝式古墳
は、高木神にふさわしいと思う。
翌日は、西都原古墳群の中にある西都原考古博物館を訪れ見学をする。博物館
は立派な造りで収容遺物が多く展示されている。時代別、種類別に、展示され
ている。そして、宮崎県、あるいは九州の考古学遺物の特徴を丁寧に説明して
ある。
私が、最も惹きつけられた展示は、免田式土器の発掘分布とそこに書かれたコ
メントである。この土器は、長い頸部と算盤玉状の胴部を持ち、弥生後期に登
場したという。そして、筑後川以南から熊本県、鹿児島県で多く発掘されてお
り、邪馬台国と対立していた「狗奴国」を象徴する土器と考えるのも魅力的な
仮説であるとのコメントがある。
私は、邪馬台国と対立していた狗奴国は、熊本県から鹿児島県の地域にあった
と考えている。免田式土器は、私の、邪馬台国西都原説を補強するものと言え
る。
その日の夕刻、私は、宮崎空港で、地元産ビールを飲みながら、名物の鳥のか
ら揚げに、舌鼓を打っていた。西都原で得た収穫に満足し、舌鼓は心地よいも
のであった。
西都原古墳群より高千穂の峰を望む
この時、思った、女狭穂塚は、邪馬台国の女王、卑弥呼の墓との考えは、間
違ってるであろう。しかし、邪馬台国は、西都市付近にあったとの考えは変
わっていない。
掲載先 歴史研究 50(12),8-10,2008-12 東京:戎光祥出版